はじめに:出口戦略を「数値で見える化」する
不動産投資のゴールは「買うこと」だけではありません、いつ・いくらで売るかを判断することつまり「出口戦略」も大事です
「この物件はいくらで売れるのか?」を感覚で判断してしまうと、実勢価格とかけ離れた査定になることも考えられます
判断を「数字で裏付ける」の方法の一つが、収益還元法(=キャップレートによる価格算定)です
この記事では、私が実際に所有している東京都新宿区の区分マンション(築10年・1K)を例にして
実際の家賃収入や経費データをもとに、「収益還元法でいくらの評価になるのか」を試算してみます
収益還元法とは何か?キャップレートとの関係
収益還元法とは?
収益還元法とは、物件が生み出す「収益力(純収益)」をもとに、投資家が求める利回り(還元利回り=キャップレート)で割り戻して価格を算定する手法です
直接還元法とDCF法の2つがあり、今回は簡易に計算できる直接還元法をご紹介します
式:価格 = 純収益(NOI) ÷ 還元利回り(キャップレート)
「純収益(NOI)」とは、家賃収入から管理費・修繕積立金・固定資産税などの経費を差し引いた後の「純粋な稼ぐ力」を意味します
つまり、「物件がどれだけお金を生み出すか」=その価値という考え方です
キャップレート(Cap Rate)とは?
キャップレート(Cap Rate)は、投資家がその物件に対して期待する「収益率(利回り)」のことです
同じ収益を上げる物件でも、キャップレートが低ければ価格は高く、キャップレートが高ければ価格は安く算出されます
キャップレートは以下のような要因で変動します
- 立地(都心・地方)
- 築年数(新しいほど低い)
- 需要の安定性(人気エリアは低い)
- 物件タイプ(区分・一棟など)
実際、区分マンションの査定ではキャップレートを基準に評価されており、 「市場が求める利回り」とほぼ同義と考えてよいでしょう
国土交通省「収益還元法」について
都心エリアのキャップレート相場
東京23区の中でも、主要5区(千代田区・中央区・港区・渋谷区・新宿区)におけるキャップレートは 最新の市況レポートによると平均3.4%前後
都心の築浅・高需要エリアでは3%台半ば~4%前半のレンジが多いようですので本記事では保守的に4.0%を想定して計算を行います
実例:所有する新宿区物件を「収益還元法」で評価してみた
ここからは、実際に所有している新宿区の区分マンションを使って、 収益還元法(直接還元法)により現時点での理論価格を算出してみます
■ 物件概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 所在地 | 東京都新宿区 |
| 築年数 | 2015年(築10年) |
| 間取り | 1K |
| 専有面積 | 約26㎡ |
| 家賃収入 | 月額98,000円 |
| ローン返済額 | 月額110,000円(※収益評価には含めない) |
| 管理費・修繕積立金 | 月額10,000円 |
| 固定資産税 | 年間130,000円 |
| 想定空室率 | 5% |
ステップ① 年間総収入(満室時)
98,000円 × 12ヶ月 = 1,176,000円
ステップ② 空室リスクを反映した実質収入
1,176,000円 × 0.95(空室率5%)= 1,117,200円
ステップ③ 年間経費
- 管理費・修繕積立金:120,000円
- 固定資産税:130,000円
合計:250,000円
ステップ④ 純収益(NOI)
1,117,200円 − 250,000円 = 867,200円
ステップ⑤ キャップレート4.0%で評価
867,200 ÷ 0.04 = 約2,168万円
収益還元法(直接還元法)による推定価格:2,170万円前後
実勢価格・査定との比較
今回の収益還元法による試算では、物件の評価額はおおよそ 2,170万円前後 という水準になりました
一方で、以前調査した不動産ライブラリやレインズで調べた約定価格のレンジは2,200〜3,500万円でした
不動産情報ライブラリで調査した例はこちら
レインズマーケットインフォメーションで調査した例はこちら
今回の収益還元法の結果は、この実勢価格帯の中間〜やや下限寄りに位置することがわかります
この差が生じる理由として、区分マンションの査定では、より低いキャップレート(4%台や3%台後半)が用いられる傾向にあると考えられます

収益還元法の計算結果は「投資利回りを重視した安全サイドの価格」であり、 実際の販売査定では「市場の取引水準に合わせて調整される」形になることも考えられるでしょう
ケースから学ぶ3つのポイント
キャップレートは「出口価格」の物差し
売却査定は「なんとなくの感覚」ではなく、利回りという客観的な基準で決まります
キャップレートが0.5%変わるだけで、価格は数百万円単位で動くため、この数字を自分の投資判断基準として把握しておくことが重要です
帳簿を整えるとNOI(純収益)が即算出できる
収益還元法の基礎となるNOI(純収益)は、青色申告・複式簿記で日々の帳簿を整えていれば、数分で算出可能です
クラウド会計ソフトを活用すれば、家賃収入・経費・固定資産税が自動集計され、 「いまの利回り」や「想定売却価格」をリアルタイムで確認できるでしょう
減価償却・キャッシュフローを併せて分析すると出口が明確に
収益還元法の結果に、減価償却の残り期間やローン残高、 税引後キャッシュフローを重ね合わせることで、 「いま売れば税引後いくら残るか」が具体的な数字として見えてくるでしょう、つまり
- あと何年保有すれば最も効率が良いか
- 次の物件へ乗り換える最適タイミング
といった、出口戦略をロジカルに描けるようになります
まとめ:収益還元法は「出口の羅針盤」
収益還元法は単なる査定の手段ではなく、 投資の全期間を通じた「意思決定ツール」です
青色申告・複式簿記で収益データを整え、 クラウド会計でNOIを即座に算出できるようにしておけば、 サラリーマン投資家でもプロと同じ基準で売却判断ができるのではないでしょうか
出口戦略を設計すれば、不動産投資は「所有」から「経営」へと進化するといえます

数字を「作る段階」を超え、「数字を使う」ことで、 不動産経営はより確実で、戦略的なものになると思います



