はじめに
不動産投資を続けていると
ある時点で、想定売却価格が残債を上回り、いわゆる含み益が見え始めます
この局面で多くの投資家が感じるのは
「今売れば利益が出ると分かっているのに、なぜか決断できない」
という迷いです
売却すれば数字上はプラスになる
一方で、売った後に何をするのかは曖昧なまま
その結果、売る理由も、持ち続ける理由も言語化できず
判断そのものを先送りしてしまうケースが少なくありません

本記事では、含み益が出た物件をどう扱うべきか、感情より管理できる判断軸について解説します
第1章 なぜ含み益が出ると売却判断に迷うのか
含み益が出た途端に判断が難しくなるのは
意思決定能力が低下したからではありません
構造的に迷いやすい条件がそろっているためです
まず前提として、利益が数字として可視化されると
人はその数字を「失いたくないもの」と認識し始めます
- 含み益という形で将来得られる可能性のある利益が見える
- 確定させないことが機会損失のように感じられる
この状態になると、売らないことが消極的な選択に見えてしまいます
しかし実際には、ここに一つ大きな誤解があります
含み益と確定益は、性質がまったく異なります
- 含み益は市況と時間に依存する評価額
- 確定益は税金を支払った後に残る手取り資金
この違いを整理しないまま判断しようとすると
「今売らないと損をするのではないか」
という感情が先行し、冷静な比較ができなくなります
さらに、売却を検討すること自体が
リスクのように捉えられやすい点も問題です
売却を考えることが、投資を後退させる行為として感じてしまい
周囲から、失敗と見られるのではないかという不安
こうした心理的ブレーキが重なり
含み益が出た物件ほど、実は最も判断が曖昧になりやすい状態に陥ります
第2章 含み益が出たから売るは合理的なのか
含み益が出た物件を売る判断が合理的かどうかは
利益が出るかどうかだけでは判断できません
まず整理すべきなのは、売却によって得られるお金の性質です
売却益は、単発で得られるキャッシュであって
同じ条件で、何度も再現できるものではありません
多くの場合、1戸の売却益だけで他物件の残債を大きく圧縮したり
投資全体のリスク構造を一変させるほどの金額にはなりません
その一方で、保有を続けている物件は次の価値を持っています
- 毎月の家賃収入という、継続的なキャッシュフロー
- 残債が減少していくことで、将来の売却条件が改善していく余地
この二つを並べたとき、含み益が出たから売るという判断は
必ずしも全体最適とは言えません
特に注意すべきなのは、売却後の資金の使い道が明確でない場合です
売って現金は増える一方で
次に何に使うかは決まっていない
この状態では、安定収益を生む資産を手放し
使途未定のキャッシュを持つことになります
判断基準として見るべきなのは
「今売れば得か」ではなく
「売却後の状態が、保有継続より明確に良くなるか」です
含み益が出たという事実は
売却を検討する十分な理由にはなります
しかし、それだけで売却を実行する理由になるとは限りません
この整理ができて初めて、売るという選択も
持ち続けるという選択も、同じ土俵で比較できるようになります
第3章 保有を続けることで増える選択肢とは何か
含み益が出ている物件を「今すぐ売れる状態」にあると
人はその選択肢ばかりに意識を向けがちです
しかし、運営が成立している物件を保有し続けること自体が
将来の判断余地を広げている点は見落とされやすいポイントです
運営が成立している物件が時間とともに持つ価値
前提として、ここで扱うのは
「家賃収入が安定し、返済や管理に致命的な問題がない物件」です
この条件を満たしている場合、保有を続けることで得られる価値は
単なる含み益の増減にとどまりません
具体的には、次の要素が同時進行で積み上がっていきます
- 毎月の家賃収入によるキャッシュフローの継続
- 元本返済の進行による残債の圧縮
- 保有年数の経過による売却時の自由度向上
これらは短期的に可視化されにくいものの
時間をかけて確実に効いてくる要素です
「今いくらで売れるか」だけで判断してしまうと
この積み上がりを自ら遮断することになります
残債減少と売却条件改善の関係
保有を続ける最大の構造的メリットは、残債が減るほど売却条件が改善する点にあります
- 残債が減る
- 同じ売却価格でも手取り額が増える
- 税引後キャッシュの自由度が高まる
この関係は非常に単純ですが、強力です
特に、すでに「残債 < 想定売却価格」の状態に入っている物件では
1年・2年の差が売却後の選択肢に直結します
今すぐ売らなくても、条件は悪化しにくく、むしろ改善していく
この前提を理解していれば
「売らない」という判断は消極策ではなく、戦略的な待ちになります
売らないことは判断放棄ではないという考え方
含み益が出ているのに売らないと
「判断を先送りしているだけではないか」という不安が生まれがちです
しかし、ここで重要なのは「考えていない」ことと
「今は売らないと決めている」ことの違いです
- 売却価格・残債・税金を把握している
- 売却した場合の手取りを数字で理解している
- その資金の使い道が現時点では定まらない
この状態であれば、売らない選択は判断放棄ではありません
むしろ、条件が整うまで保有を続けるという明確な意思決定です
売却を「いつでも実行できる選択肢」として維持し続けること
それが、運営が成立している物件を持つ投資家にとっての合理的な姿勢です
第4章 売却判断は次の用途とセットで考える
売却が合理的になるかどうかは、「いくらで売れるか」よりも
「売った後に何をするか」で決まります
出口戦略という言葉が使われがちですが
実態としては「次の用途戦略」と考えた方が正確です
売却が合理的になる具体的な使い道の整理
売却が意味を持つのは、資金の使い道が明確な場合に限られます
代表的な用途は次の通りです
- 収益性の高い物件への再投資
- 生活防衛資金としての現金確保
- 借入比率を下げるためのリスク低減
これらはいずれも
「売却によって全体最適が改善する」ケースです
単に含み益を現金化すること自体が目的になってしまうと、判断軸が曖昧になります
再投資・生活防衛・リスク低減という視点
売却後の使途は、投資フェーズによっても変わります
- 拡大期であれば、より効率の良い再投資
- 安定期であれば、生活防衛資金の厚み
- 借入が重い場合は、負債圧縮による耐久力向上
重要なのは
「今の自分のフェーズで、何を優先すべきか」を言語化することです
その答えが出ていない段階での売却は、資金効率を下げる可能性が高くなります
使途が決まらない売却が非効率になりやすい理由
使い道が曖昧なまま売却すると、次のような状態に陥りやすくなります
- 現金は増えたが、再投資先が決まらない
- インフレにより実質価値が目減りする
- 家賃収入が減り、心理的な安心感も下がる
結果として
「売らなければよかったのではないか」という後悔につながるケースも少なくありません
売却はゴールではなく、あくまで手段です
先に決めるべきは、売却後に実現したい状態です
第5章 売却判断を先送りした場合と誤った場合のリスク
一方で、「とりあえず保有を続ける」ことにも
リスクがないわけではありません
重要なのは、何も考えずに先送りすることと
条件を把握した上で保有することを明確に分けることです
売却検討をしないことで見落とされやすい問題
売却検討そのものを行わない場合、次のような問題が起きやすくなります
- 含み益や手取り額を正確に把握していない
- 市場環境の変化に気づくのが遅れる
- 売却という選択肢が突然必要になったときに準備不足になる
「考えていなかった」という状態自体が、投資リスクになります
市場や税制変化に対応できなくなる構造
不動産市場や税制は、長期的に見れば必ず変化します
その際、事前に数字を把握していないと、冷静な判断ができません
- 売却益に対する税負担の変化
- 金利上昇による収支構造の変化
- 流動性の低下による売却期間の長期化
これらに対応するためにも
「今売ったらどうなるか」を定期的に把握しておく必要があります
目的なく売却した結果起きやすい失敗パターン
逆に、準備不足のまま売却してしまった場合の失敗も典型的です
- 明確な再投資先がなく、資金が寝る
- 収益資産を減らしたことでキャッシュフローが細る
- 精神的な安定感が下がり、次の判断がブレる
これは含み益が出ている物件ほど起きやすい失敗です
だからこそ、売るか持つかを一度きりで決めるのではなく
毎年更新する判断として管理することが重要になります
第6章 条件付きで成立する結論とは何か
ここまで整理してきた通り
「含み益が出たら売るか、保有を続けるか」という問いに、万人向けの正解は存在しません
成立するのは常に条件付きの結論であり
その条件を言語化できるかどうかが判断の質を左右します
保有を続ける判断が合理的になる条件
保有継続が合理的と言えるのは、次の前提が揃っている場合です
- 家賃収入が安定しており、キャッシュフローが黒字である
- 管理・修繕・返済に無理がなく、運営が破綻していない
- 含み益と売却時の手取り額を数字で把握している
これらを満たしている限り
「今は売らない」という判断は十分に論理的です
特に、売却後の資金用途が明確でない場合
保有を続けることで失われる合理性は限定的です
重要なのは、「売れる状態にある」ことと「売るべき状態にある」ことを
混同しないことです
売却を実行すべきタイミングの整理
一方で、売却が合理的に成立する局面も確かに存在します
それは、次のような条件が重なったときです
- 売却後の資金使途が具体的に決まっている
- 再投資やリスク低減によって、全体の収益性や安全性が改善する
- 市場環境や物件特性から見て、今が条件のピークと判断できる
ここでのポイントは、「含み益が出たかどうか」ではありません
売却によって、保有し続ける場合よりも明確に良い状態を作れるかどうかです
売るか持つかではなく毎年更新する判断にするという考え方
最も重要なのは、売却判断を一度きりの決断にしないことです
- 毎年1回
- 想定売却価格
- 残債
- 税引後の手取り額
- 売却後の代替案
これらをセットで試算し、「今年は売らない」「今年は条件が揃った」と更新していく
このプロセス自体が、感情に左右されない意思決定を可能にします
売却は「決断」ではなく、「管理する選択肢」として扱う
それが、一定規模まで資産を積み上げた投資家に適した判断軸です
まとめ
本記事で整理してきた判断軸を、最後に明確に線引きします
- 含み益が出たから売るという判断は
運営が安定している投資家にとって、必ずしも合理的ではない - 売却後に何を実現したいかが言語化できている場合にのみ
売却は有効な選択肢になる - 年収600〜1,000万円・投資歴8年以上・複数物件を保有し、家賃収入が安定している人にとっては
保有を続けながら毎年売却条件を試算する判断が現実的である
一方で、
- 売却益の使い道が決まっていないにもかかわらず
含み益に引きずられて売却すること - 数字を把握せず
「いつか考えればいい」と判断を放置すること
これらは、やってはいけない選択です

運営が成立している間は保有を続けつつ、売却した場合の手取りと代替案を毎年確認するそれが、長期で資産を管理するための現実的な意思決定になります

