はじめに
不動産投資において、近年は「個人名義」から「法人名義へ」とシフトする選択をする投資家もいます
背景には、
- 融資枠を広げたい
- 節税効果を得たい
- 資産管理をしやすくしたい
- 事業としての信用力を高めたい
といったニーズがあります
しかし誤解してはいけないのが、「法人を作れば融資が通る」わけではないということです
法人スキームが効果を発揮するためには、法人としての信用力・収益構造・資産管理が適切に整っている必要があります

本記事では、法人スキームを活用して融資を受けやすくするためのポイントについて体系的に解説します
法人化による融資優位性の実態
個人所有との違い:法人で融資を申請する際の構造
法人で融資を受ける場合、銀行は「個人の年収」に加えて、
- 法人の事業性
- 収益の継続性
- 会社としての信用力
- 財務内容(貸借対照表・損益計算書)
を見ます

個人は給与所得が基準ですが、法人は「事業としての収益」が審査対象となるため、
事業としての計画性や財務管理が評価されやすい点が特徴です
法人で融資を受けやすくなるポイント
法人としての融資が有利になる場面には以下があります:
- 個人より融資枠を増やしやすい(事業性評価)
- 高額物件や複数物件への投資がしやすい
- 銀行が“法人として育てやすい”と判断しやすい

銀行は法人に対して、「将来の借入・取引拡大の見込み」を重視するため、拡大志向の投資家にはプラスに働きやすい構造です
法人化で使われる典型的スキーム
次のような典型的なスキームがあります:
- 1法人1物件スキーム
物件ごとに法人を分け、リスクを切り分ける方法です - 資産管理会社による運用
持株会社のように資産を一括管理する方法です - 家族を役員にするガバナンス型「資産法人」
家族を役員にし、一家で資産を管理する方法です

銀行側にも「構造が理解しやすい」メリットがあり、適切に運用されていればプラス評価を受けやすい形態です
資産管理法人スキームとその工夫
資産管理会社とは?設立メリット・活用可能な範囲
資産管理会社は、不動産・株式・保険などの資産を管理するための法人です
メリットとしては
- 所得分散による 節税効果
- 相続対策としての 株式移転の容易さ
- 銀行からの 信用力改善
- 個人と法人の 資産を明確に分離

法人名義での契約や投資活動が可能になり、長期的な資産形成を行いやすい土台になります
法人管理の工夫:社宅扱い・経費計上・法人名義運用
法人スキームでは、
- 社宅化して家賃の一部を法人負担にする
- 会議費・旅費・交通費などの経費活用
- 賃貸物件を法人名義で管理し、収支を明確化
- 設備投資・修繕費を法人経費で処理
など、経費最適化とキャッシュフロー改善が可能となります

ただし過度な経費計上は税務調査の対象になるため注意が必要です
注意すべきリスク:多法人スキーム・融資隠し
銀行は
- 多法人スキームによる借入隠し
- 収益の実態が不透明な法人
に対して非常に厳しいスタンスを取っています
法人を複数設立する場合は、
- 資金移動の透明性
- 連結視点での収支説明
- 資産の所在の明確化
などを徹底し、「隠し事のない管理体制」を維持することが必要です
融資申請時に押さえておきたい法人運用のポイント
事業性・収益構造を銀行に示す
融資審査で見られるのは「法人の実態」です
銀行は、
- 安定した収益が出ているか
- 事業として成り立つか
- 法人としての意思決定体制があるか
- 財務の透明性(帳簿・レポート)
を確認します

個人名義よりも、法人は「事業性の説明力」が求められます
法人化によるコストと負担を理解する
法人化にはメリットだけでなく、以下のようなコスト負担も発生します:
- 法人住民税(均等割)
- 顧問税理士費用(月額1〜3万円が一般的)
- 決算書作成などの 事務負担

融資枠を広げるためには、これらのコストを織り込んだ事業計画を銀行に提示する必要があります
融資枠を拡大するための戦略
法人スキームで融資を受けやすくするには、次のポイントが重要です:
- 複数銀行を使って借入枠を広げる
- 法人の財務(三表)を毎期黒字化で維持する
- 決算書の見せ方(償却・費用計上のメリハリ)
- 個人の属性(給与収入)と法人の事業性をセットで提示
- 返済実績を積んで「金融機関との取引履歴」を強化
これらを継続することで、銀行が育てたい法人として評価する条件が整っていきます
スキーム設計から運用・出口までの流れ
法人スキームは「設立 → 融資 → 運用 → 出口(売却・保有継続)」の各ステージで目的と戦略が変わります
単に法人を作るのではなく、フェーズに応じて最適化する設計力が融資成功の鍵となります
設立から融資、運用、出口までのロードマップ
法人設立フェーズ(準備段階)
まず、選択肢が複数ありますので決める必要があります
- 目的の明確化:「節税」「拡大」、「資産管理」
- 会社形態の選定:「合同会社」、 「株式会社」
- 出資金:「個人」「株主構成」「相続対策」
法人を設立後には整備が必要になります
- 会社口座
- 会計ソフト
- 会計ルール
- 就業規則(必要に応じて)

この段階で最も重要なのは、銀行に見せられる「法人の箱」を正しく作ること」です
融資申請フェーズ
法人としての事業計画や収益モデル、修繕計画、運用ポリシーは、融資審査において重要な評価項目です
特に決算書が提出できない新規法人や設立間もない法人の場合、創業計画書や個人の属性が重視されます
法人の信用力を高めるためには、初期段階で個人の給与明細や金融資産の提示、過去の投資実績、返済履歴などを準備しておくことが有効です
銀行は「個人+法人=総合評価」として審査を行うことが多いため、個人の信用力も大きく影響します。

この段階は、法人の信用力を個人が担保する移行期間といえます
運用フェーズ(法人の育成段階)
不動産経営においては、まず黒字を安定的に維持することが最重要となります
修繕費や運営経費のバランスを適切に整え、日々のキャッシュフローをしっかり管理することが求められます
また、帳簿の透明性を高めることも欠かせません
経費の根拠や通帳の資金の動きを明確にしておくことで、金融機関からの評価は確実に上昇します
さらに、毎期の決算書を丁寧に見直し、必要に応じて償却費の調整を行うことが重要です
修繕費か資本的支出かの判断を適切につけることも、税務上のリスクを避けるための基本となります
加えて、社宅扱いの設定や役員報酬の最適化を検討することで、全体のキャッシュフロー効率を一段と高めることが可能になってきます

運用フェーズの目的は、「銀行が安心して追加融資したい法人」に育てることです
出口フェーズ(売却 or 保有継続の判断)
不動産投資では、運用初期の収益だけでなく、出口時点での価値をどのように捉えるかが重要です
DCF法(ディスカウント・キャッシュ・フロー法)や収益還元法を用いて将来の売却価値を試算し、想定利回りや市場環境の変動も踏まえてシミュレーションを行うことで、より現実的な出口戦略を描くことができます
売却を選択する場合には、法人で保有している場合の法人税や株主配当課税を見据えた税務計画が欠かせません
一方、保有を継続するなら、金利動向に合わせた融資の借り換えや、建物の残存耐用年数を再確認して減価償却計画を見直すことが必要になります
さらに、単なる短期の利益確定にとどまらず、節税、次の物件購入、さらには資産移転(相続)までを一気通貫で考えることで、中長期的な資産形成を効率的に進めることが可能になります

出口戦略にも法人スキームは深く関わるため、計数管理(数字での判断)が必須になります
ケース別にみる法人化スキームの選択肢
法人スキームは「どのフェーズの投資家か」で最適解が変わります
ケース①:不動産投資初心者(1〜2件目)
初心者に向いているスキームは
- 個人名義スタート + 将来の法人化の準備
- コストと実績不足のため、いきなりの法人化は困難
- 銀行も個人属性(年収・勤務先)を最重視するフェーズ

法人化の検討は、収益が安定し、年間所得が700〜900万円を超える頃が目安になるケースが多いです
ケース②:拡大期(3件目〜アパート購入)
このフェーズは 法人スキームが最も効果を発揮する段階
- 法人名義での融資枠拡張
- 決算書を整えて「事業性評価」を受ける
- 複数銀行を同時活用し、借入上限を伸ばす

特にアパート投資では法人名義が有利になることが多く、銀行も「事業としての成長」を前提に審査するため、法人スキームが標準化されるフェーズです
スキーム設計時のチェックリスト
法人スキームを安全に運用するための実務チェックポイントです
所有名義・契約内容
- 法人の定款に「不動産賃貸業」の記載があるか
- ローン名義と登記名義が一致しているか
- 賃貸借契約・管理委託契約が法人名義で整理されているか
帳簿・会計管理
- 通帳の動きがシンプルで説明しやすいか
- 毎月の経費・入金の仕訳が正確か
- 税理士との連携が取れているか
- 役員貸付・役員借入が乱れていないか(銀行は特にチェック)
法人の信用力
- 黒字化を維持しているか
- 決算書に不自然な処理がないか
- 返済履歴が積み上がっているか
- 法人の現預金が一定水準保たれているか
リスク管理
- 多法人スキームの“借入隠し”と誤解される構造は回避
- 税務調査でも説明できる帳簿管理
- 法人住民税(均等割)や顧問料などの固定費の把握
まとめ
法人スキームは、「法人を作れば融資が通る」魔法の仕組みではありません
効果を発揮するのは、
- 資産管理
- 収益構造
- 会計の透明性
- 信用力
- 出口戦略
が揃ったときだけです
適切な法人設立・財務管理・融資申請の準備を行えば、個人名義よりも有利な条件で融資が通るケースは増えます
しかし、法人スキームにはメリットだけでなく、税務リスク・法務リスク・会計負担などのデメリットもあります

税理士・司法書士・銀行担当者など専門家と連携して設計することが、失敗しない最も効果的な方法です

