はじめに
不動産投資で一件目、二件目が大きな問題なく回り始めると
多くの人が「この感じなら、もう一件いけそうだ」と感じるケースがあります
実際、このタイミングは、金融機関からの評価もまだ悪くなく
いくつかの銀行から「融資は出せますよ」と言われやすい局面です
そのため、「借りられるなら今のうちに借りておこう」という
判断が生まれやすくなります
しかし、この判断は短期では正しく見えても
中期以降で効いてくるリスクを内包しています

本記事では、拡大期に「借りられる銀行」を基準に選ぶと、後から身動きが取れなくなる理由について、時間軸の視点での融資枠の使い方の視点で解説します
第1章 拡大期に多くの人が見落とす前提
融資は単発ではなく連続した判断
拡大期の融資で最初に見落とされがちなのは
融資は一回ごとに完結するものではない、という前提です
一度借りた融資は
- 返済比率
- キャッシュフロー
- 決算書の数字
として、その後のすべての審査に影響します
つまり、拡大とは「一件ごとの点の判断」ではなく
「連続した線の判断」です
今回の融資条件が、次の銀行からどう見られるか
さらにその次に、どんな評価につながるか
この視点がないまま拡大すると
後になってから「なぜ次が出ないのか」が分からなくなります
融資審査が今通るかだけで判断してしまう心理
それでも多くの人が「融資審査が今通るか」を
優先してしまうのには理由があります
拡大期には
- 良い物件を逃したくないという機会損失への恐怖
- 今借りられなくなったら次はないかもしれないという不安
が強くなります
その結果、「条件は多少悪いが、今は出るから」という
判断に傾きやすくなります
ただし、この判断は
融資枠を消費するスピードを早める選択でもあります
今の安心感と引き換えに
数件後の選択肢を削っている可能性があることを
この段階ではまだ実感しにくいのです
第2章 借りやすい銀行ほど中期で首を絞める理由
拡大期に通りやすい融資の特徴
拡大期に「通りやすい」と感じる融資には
いくつか共通した特徴があります
代表的なのは
- 金利が高め
- 自己資金が少なくても出る
- 属性評価が中心で、事業性評価が弱い
といった条件です
これらは、短期的には非常に魅力的に見えます
実績が浅くても話が進みやすく、スピード感もあります
ただし、その分、返済条件が決算書に与える負荷は大きくなります
決算書に起きる変化
こうした融資を使うと
決算書には次のような変化が積み上がっていきます
- 返済比率が上昇する
- キャッシュフローが圧迫される
- 利益が出ていないように見える
表面上は「返済はできている」状態でも
数字の見え方は確実に悪くなります
この変化は、一件目や二件目では目立ちません
しかし、拡大を重ねるほど次の審査で効いてきます
表面化する問題
その結果、起きやすいのが
- 今の返済は問題ない
- 滞納もしていない
- しかし、追加融資が出ない
といった状態で、いわゆる「返せているが、次が出ない」状態です
この段階で初めて、拡大期の銀行選びが
後から効いてくる判断だったことに気づきます
重要なのは、この問題は物件単体の良し悪しではなく
どの銀行をどの順番で使ったかによって生じている点です
拡大期の判断は、その場での通りやすさではなく
次の選択肢を残しているかどうかで評価する必要があります
第3章 キャッシュフローが出ない拡大が評価を止める
拡大期に起きやすい失敗は、物件数が増えているにもかかわらず
評価が前に進まなくなることです
その原因の多くは「キャッシュフローが出ない拡大」を
自覚しないまま積み上げてしまう点にあります
件数だけ増える拡大の典型
最初に理解しておきたいのは
拡大と評価は必ずしも比例しないという前提です
特に次のような構造は、拡大しているつもりでも中身が伴っていません
・利回りが低い物件
見た目の安定性や立地を重視するあまり
返済後にほとんど残らない利回りで購入してしまうケースです
空室リスクは低く見えても、数字上の余白は生まれません
・手残りが残らない構造
返済、管理費、修繕積立を引いた後、キャッシュフローが
ゼロかほぼゼロという状態です
物件単体では問題なく回っているように見えますが
件数が増えるほど固定費と返済だけが積み上がります
この段階では、多くの人が「まだ大丈夫」「次の一件で改善すればいい」と
考えがちですが、この認識が次の判断を遅らせます
金融機関からの見え方
投資家本人の感覚と、金融機関の評価は一致しません
金融機関は次のような視点で全体を見ています
・規模はあるが利益が出ていない
物件数や借入残高は増えているのに
決算書上の利益やキャッシュフローがほとんど残っていない状態です
返済実績よりも、事業としての余力が重視されます
・再現性が低いと判断される
一度は通った条件でも、同じ形で次も増やせるとは見られません
返済に耐える構造が弱く、少し条件が変わると崩れると評価されやすくなります
結果として、「規模は拡大しているが、賃貸経営として強くなっていない」という
印象を持たれます、この時点で、次の融資は慎重枠に入ります
失敗に気づくタイミング
この問題が表面化するのは、実際にはかなり後です
多くの場合、次の融資相談の場で初めて気づきます
・次の融資相談で評価が出なくなったとき
否決ではなく、「今回は難しい」「もう少し様子を見たい」という
反応が返ってきます
返済遅延はなく、物件も回っているそれでも前に進まない状態です
この時点で初めて、キャッシュフローが出ない拡大が評価を止めていたことに気づきます
しかし、ここから立て直すには時間がかかります
第4章 融資枠は順番を間違えると巻き返せない
次に理解すべきなのは、融資枠は使い方を間違えると
後から取り戻せない資源だという点です
拡大期ほど、この前提を軽視しがちです
融資枠は使い切ると戻らない
融資枠は、借りた瞬間に減り、すぐに元に戻るものではありません
むしろ、次のような時間差で影響が残ります
・借りた直後に回復するものではない
返済実績を積んでも、評価が戻るまでには決算を何期もまたぐ必要があります
その間、新しい選択肢は増えません
つまり、どの銀行でどの条件の融資を使ったかは、中期の行動範囲を直接制限します
よくある失敗パターン
拡大期に特に多いのが、次のような判断の流れです
・条件の悪い銀行で先に借りる
金利が高く、返済比率が上がりやすい融資でも
「今通る」ことを優先して選んでしまいます
・実績後に良い銀行へ行こうとする
数件実績を作れば、より条件の良い銀行に移れると考えます
しかし、実績と同時に返済比率も積み上がっています
・すでに返済比率が高く手遅れになる
結果として、良い銀行に相談する段階では評価余力が残っておらず、話が進みません
この失敗は、能力や努力の問題ではなく、順番の問題です
なぜ後戻りが効かないのか
後戻りが難しい理由は明確です
銀行は過去の融資条件を前提に、現在の評価を行うからです
銀行選びは順序の問題です
最初に使った条件が、次の条件の上限を決めます
一度高い返済比率に入ると、それを前提にしか評価されません
この構造を理解せずに拡大すると、途中で気づいても修正が効かなくなります
第5章 慎重すぎる選択と 間違えた選択の分岐
ここまでの話を踏まえると、拡大期の選択は二極化します
どちらも一見すると合理的ですが、結果は大きく異なります
借りるのを急がなかった場合
拡大を急がず、融資スピードを抑えた選択です
- 拡大スピードは遅く、物件数はなかなか増えない
周囲より出遅れたように感じることもある - 返済比率を抑え、相談できる銀行が複数残る
条件交渉の余地も維持される - リスクは低いが、利益機会の取りこぼし(機会損失)は発生する
ただし、構造的な「詰み」にはならず、今後の選択肢を保てる
このタイプは、スピードよりも「融資余力の温存」を重視する堅実な進め方です
短期の伸びは控えめでも、再起可能性を失わないという点で安定的です
借りられる銀行を優先した場合
次に、借りられる銀行を優先した場合です
- 短期的には拡大でき、物件数も増える
達成感を得やすく、多くの人が「成功」と感じる段階 - 中期で融資が止まり、次の一手が打てなくなる
返済比率が上限に達し、借り換えも難しくなる - キャッシュフローに余裕がなく、自転車操業に近い状態になる
維持するだけの経営へ移行
このタイプは「今通る融資」に焦点を当てすぎたパターンです
結果として、早期の拡大は可能でも、動けない期間が長く続くことになります
結局の分岐点は、「今回通るか」ではなく「この融資の後も選択肢が残るか」
この視点を持てたかどうかが、将来の柔軟性を決定づけます
第6章 拡大期の銀行選びで持つべき判断基準
ここまで見てきた通り、拡大期の失敗は偶然ではなく
判断基準の欠如から生まれます
ここでは、個別の銀行名や金利条件ではなく、拡大期に共通して使える判断軸を整理します
見るべき三つの視点
銀行選びの前に、必ず立ち止まって確認すべき視点があります
いずれも「今回の融資」ではなく、その後を含めた評価を想定するためのものです
・この融資の後に相談できる銀行は残るか
一行で枠を大きく使い切ってしまうと、他行に持ち込める余地がなくなります
借入先が残る構造かどうかは、拡大の継続性を左右します
・返済比率とキャッシュフローは次でどう見られるか
今の返済が回るかではなく、次の審査でどう評価される水準かを考えます
返済比率が上がり過ぎていないか、数字の余白が残るかが重要です
・段階的に評価が上がる構造か
一度きりで終わる融資ではなく、実績を積むことで条件が改善する余地があるかを見ます
評価が積み上がらない融資は、拡大期には重荷になります
この三点のいずれかが欠ける場合
その融資は「今は通るが先がない」可能性が高いと判断できます
条件付きの結論
これらを踏まえた上での結論は、単純ですが条件付きです
借りるか借りないかではなく、どう使うかが問われます
・今回通るだけの融資で枠を使い切らない
金利やスピードだけで選び、融資枠を消費し切る判断は拡大期では避けるべきです
通過点としての融資かどうかを見極めます
・次とその次を残す銀行選びをする
三件後、五件後にも相談先が残る順番で融資を使います
結果として拡大スピードは抑えられますが、評価は止まりません
この条件を満たすかどうかが、拡大を続けられるかどうかの分かれ目です
まとめ
拡大期の失敗は、実は銀行選びで決まります
物件の良し悪しや個人の努力以上に、どのような融資を使うかが将来を左右します
さらに、「借りやすさ」は必ずしも「安全性」を意味しません
いまは通る条件でも、次の融資が同じように通るとは限らないのです
融資枠は一度きりの枠ではなく、時間の中で使っていく資源です
その時々の判断が、数年後の選択肢の幅を決めます
だからこそ、三件後、五件後も融資を受けられる構造を意識して
判断することが重要です
目先の成功よりも、継続できる形を優先すべきです
こうした考え方は
「これから数件を積み上げていきたい拡大初期の人」にとっては有効な選択肢になります
一方で、「短期間で件数を最大化したい人」や「次が止まっても構わない人」にとっては
避けるべきアプローチです

拡大を続けていくためには、判断基準を「借りられるか」ではなく、「借りた後も次が残るか」に置くことが大事です

