はじめに:なぜ「資産移行の課税問題」が重要なのか
サラリーマンで不動産投資を続けて収益が安定してくると、「そろそろ法人化を考えたい」と思うタイミングが訪れます
しかし、ここで注意すべきなのが、「個人名義の物件を法人へ移す=課税対象になる」という点です
見た目には「自分から自分へ移すだけ」のように感じますが、税法上はまったく別扱いです
個人と法人は別人格とみなされるため、法人への資産移転は「第三者への売却」と同義になります
その結果、以下のような税金が発生します
- 譲渡所得税(売却益に対して課税)
- 登録免許税(名義変更登記の際に発生)
- 不動産取得税(法人が不動産を新たに取得したとみなされる)
特に注意したいのは、「節税のつもりで法人化したのに、結果的に数百万円単位の税金が発生する」ケースがあることです

この記事では、「資産移行の課税問題」の仕組みとリスクについて解説します
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資産移行で発生する主な税金の種類
個人の不動産を法人に移す場合、登場するのは以下の3つの税金です
それぞれの性質を理解しておくと、どこで負担が発生するのかが明確になります
譲渡所得税
不動産を法人へ売却したとみなされるため、購入時の価格と現在の時価の差額(譲渡益)に課税されます
これは「自分の法人に売るだけ」でも例外ではなく、時価ベースで課税される点がポイントです
たとえば、
- 購入価格:2,000万円
- 現在の時価:3,000万円
の場合、1,000万円の譲渡所得が発生し、約20%(長期譲渡なら15%+住民税5%)の税金が課されます
登録免許税
不動産の名義を個人から法人へ変更するときに、登記の際に発生する税金です
土地の場合は固定資産税評価額の2%、建物の場合は2%が一般的な税率です
評価額が高いほど金額も大きくなるため、移転コストとして軽視できません
不動産取得税
法人が新たに不動産を取得したとみなされるため、固定資産税評価額の3〜4%程度が課税されます
この税金は登記後に都道府県から納税通知が届くため、後から気づいて驚くケースも少なくありません

更に、状況によっては、消費税・印紙税なども発生する場合があります
「時価評価」の落とし穴と税務リスク
多くのサラリーマン投資家が見落としがちなのが、「時価評価」の考え方です
「どうせ自分の法人なんだから、簿価(購入価格)で移せばいいのでは?」 そう思ってしまうのは自然ですが、税法上は認められません
個人と法人は別の存在であり、取引価格は「時価」でなければならないとされています
したがって、たとえ1円で法人に売ったとしても、税務署は「時価で譲渡したもの」とみなし、 差額に対して譲渡所得税を課すことができます
さらに厄介なのが、「時価」の判断基準が曖昧な点です
一般的には「路線価」「固定資産税評価額」「不動産鑑定評価額」などを用いますが、最終的な判断権は税務署側にあります
不自然に安い価格での移転は、「低額譲渡」として追徴課税を受けるリスクもあります
そのため、節税を狙って形式的に価格を下げるのは危険です

資産移行を検討する際は、必ず税理士や不動産鑑定士に相談して、根拠を残すことが重要です
よくある誤解と危険なケース
ここでは、実際によくある誤解や危険なケースを紹介します
親族間の名義変更だから課税されない?
親族や自分の会社など、関係が近い場合でも課税は発生します
税法上はあくまで「個人」と「法人」は別人格 たとえ家族経営の会社でも、「譲渡」扱いになります 結果的に、譲渡所得税・登録免許税・不動産取得税のすべてが課税対象です
合同会社なら登記コストが安いから大丈夫?
確かに合同会社は設立費用が株式会社より安く、維持コストも低めです
しかし、名義変更にかかる税金や登録免許税の負担は変わりません 「設立が安い=資産移行も安く済む」と誤解していると、想定外の税金が発生します
会社を作って個人のローンを引き継げる?
これも大きな誤解です 銀行ローンは「借主の信用情報」に基づいて契約されているため、 法人を設立しても自動的にローンを引き継ぐことはできません
法人が同じ物件を所有するには、法人名義での再審査・新規借入が必要です

金利・期間・返済条件が変わるケースもあり、むしろ不利になることもあります
また、個人ローンを無断で法人に移転する行為は契約違反とされることがあるため、非常に危険です
税負担を抑える3つの現実的アプローチ
個人で保有している不動産を法人へ移す場合、「譲渡所得課税」「登録免許税・不動産取得税」など、想定外の税負担が発生します
しかし、すべてのケースで移行が不利とは限りません。以下の3つの方法を理解し、自分の投資スタイルに合った対応を選ぶことが大切です
新規購入から法人名義で進める(最も安全)
もっともシンプルでリスクが少ないのが、新たに購入する物件を最初から法人名義にする方法です
この場合、個人の資産を動かす必要がなく、移転課税の問題が発生しません
法人を設立した時点で新しい口座・資金の流れを作り、以降の投資を法人単位で進める形です

「今ある物件は個人の資産として保有しつつ、次の投資から法人で育てていく」という二本立ての戦略が有効です
法人への「賃貸借契約」に留め、所有は個人のまま
個人名義の不動産をそのまま所有しつつ、法人に貸し出す形を取る方法もあります
たとえば、個人が物件オーナーのまま、法人がその物件をサブリースして運用するイメージです
この形なら、所有権の移転がないため譲渡課税は発生しません
法人側では賃料を経費計上でき、個人側では家賃収入として計上します

ただし、貸借条件が「実態のある契約」であることが前提で、形式的に見せかけの契約を結ぶと税務リスクが生じる点には注意が必要です
個人→法人へ段階的に貸し付け・出資する形で整理
第三の方法は、個人の資産を法人へ徐々に移していく形です
たとえば、個人が法人に資金を「貸し付け」たり、法人の出資金として一部を「現物出資」したりするなど、段階的に整理していく方法です
ただし、これはケースごとに課税関係が異なり、専門家のサポートが必須です
特に、現物出資は譲渡や売買があったと見なされ課税が生じます

法人化を急ぐよりも、「どの資産を・どのタイミングで・どの形で移すか」を冷静にシミュレーションすることが重要です
ケーススタディ:個人から法人へ物件を移した場合の損得比較
具体的な例で考えてみましょう
- 購入時価格:2,000万円
- 現在の時価:3,000万円
- 法人へ売却または出資による移転
→ 差額1,000万円が譲渡所得として扱われ、約20%(200万円)の課税が発生します。
さらに登録免許税・不動産取得税も加わるため、移転コストは合計で数百万円に達するケースも珍しくありません
結果的に、「節税のための法人化」が逆に税負担を増やすこともあり得ます

とくに、キャッシュフローの余裕がない段階で移行すると、資金繰りが苦しくなるリスクもあるため要注意です
法人化を見据えた資産設計のポイント
法人化を検討する際は、「資産移行ありき」ではなく「新規投資の枠組み設計」として捉えることが重要です
- 既存の個人資産はそのまま保有し、法人では新しい収益源を構築する
- その上で、個人と法人の2つのポートフォリオを組み合わせ、二本立て運用を行う
- 法人化後の出口(売却・相続・事業承継)までを見据えて、長期の経営設計を行う

このように、「今の節税」ではなく「将来の資産構造」を基準に判断することが、結果的に最も合理的な法人化につながります
まとめ:資産移行は「節税」ではなく「経営設計」の問題
個人から法人への資産移行は、単なる節税テクニックではなく、事業のステージを再構築する行為です
- 法人化は「税金を先延ばしする手段」ではなく、「資産管理を効率化する仕組み」
- 無理に個人資産を移すよりも、法人で新たに資産を育てる方が得策なケースが多い
- 目的は節税ではなく、「経営としての意思決定の自由度」を高めることにある
サラリーマン不動産投資家にとって、法人化はゴールではなく、「次のステージ」に進むための選択肢です

焦らず、税理士とともに長期的な視点で設計することが、最も現実的かつ安全な「法人化戦略」だといえるでしょう

