はじめに
不動産投資を行うサラリーマンにとって、「青色申告を使った場合と使わなかった場合でどれくらい差が出るか」を具体的にイメージできることは判断材料になると思います

本記事では、ケーススタディ形式で、区分マンション1室・一棟アパート・複数棟それぞれの運用した場合の異なるスケールで、青色申告を活用した運用を比較します
ケース1:ワンルームマンション1室(小規模運用)
前提条件と物件スペック(仮定モデル)
シンプル化したモデルケースとしての仮定です
| 項目 | 値(仮定) |
|---|---|
| 物件種別 | 新築区分マンション 1室 |
| 購入価格(建物+土地) | 3,000万円 |
| 建物部分取得価格 | 1,200万円(按分) |
| ローン条件 | 元利均等返済、35年、金利2.5% |
| 月家賃収入 | 9.8万円 |
| 年間家賃収入 | 117.6万円 |
| 管理費・修繕積立金等 | 月1万円 → 年間12万円 |
| 固定資産税・都市計画税 | 年13万円(仮定) |
| 空室率 | 5%(稼働95%想定) |
青色申告を適用した場合の試算
減価償却費の計算
建物部分1,200万円を、法定耐用年数(例:RC造47年)で直線法で償却すると、年間償却費は約 1,200万円 ÷ 47年 = 約25.5万円/年(実際には耐用年数・構造・改定償却などの調整が入ります)
→ この25.5万円を必要経費として計上できます
必要経費その他
- 管理費・修繕費:12万円
- 固定資産税・都市計画税:13万円
- ローン利息部分(元金返済分は経費になりません)
- → 年間の利息約60万円
- その他:保険料、清掃費、広告費など5万円
- 減価償却費:25.5万円
合算すると、必要経費総額 ≒ 12 + 13 + 60 + 5 + 25.5 = 115.5 万円(減価償却費含む)
所得(課税所得ベース)
収入:117.6万円 × 0.95(空室率95%) = 約111.7万円
収入 − 経費 ≒ 111.7 − 115.5 = ▲3.8万円(帳簿上は赤字)
このように、減価償却費があることで「帳簿上は赤字」になります
青色申告特別控除や損益通算の適用
この赤字(純損失)は、給与所得と損益通算可能なため、課税所得を圧縮できます
さらに、青色申告を選択していれば、青色申告特別控除(最大65万円)を使える可能性があり、仮に黒字転換しても所得税・住民税の圧縮に寄与します
また、この帳簿赤字は 最長3年間繰越控除 が可能であり、将来黒字年に利益を圧縮できる効果があります
利点と課題
利点
- 小規模でも節税効果が得られる(損益通算、特別控除、繰越控除など)
- 管理・運営が簡便で、実務負担が比較的小さい
- 申告経験を通じて帳簿管理能力向上が見込める
課題・注意点
- 節税効果は限定的で、大幅な所得圧縮は難しい
- 帳簿作成や証憑保管の手間がかかる
- 減価償却が進むと将来的に赤字が解消し、経費が減る可能性がある
- 青色事業専従者給与などの追加メリットは適用しづらい

赤字を出している期間は手元にキャッシュが残りにくい運営になり得ますので、資金繰りの余裕があるかを見極める必要があります
ケース2:一棟アパート(中規模運用)
前提条件と物件スペック(仮定モデル)
シンプル化したモデルケースとしての仮定です
| 項目 | 値(仮定) |
|---|---|
| 物件種別 | 木造アパート 一棟(8戸) |
| 購入価格(建物+土地) | 8,000万円 |
| 建物部分取得価格 | 4,000万円(按分) |
| 築年数 | 20年(木造) |
| ローン条件 | 元利均等返済、30年、金利3.0% |
| 月家賃合計 | 各戸平均6.5万円 × 8戸 = 52万円 |
| 年間家賃収入 | 52万円 × 12 = 624万円 |
| 空室率 | 8%(稼働率92%想定) |
| 管理費・修繕積立 | 年間60万円 |
| 固定資産税・都市計画税 | 年65万円 |
| その他経費(保険・広告・清掃など) | 年20万円 |
| 利息支払額(初期仮定) | 約 200万円/年(仮定) |
青色申告を適用した場合の試算
減価償却費の計算
建物部分 4,000万円を法定耐用年数(木造22年)で定額償却:
4,000万円 ÷ 22年 ≒ 約181.8万円/年
(中古物件なので実際には残存耐用年数調整が入ります)
必要経費その他
- 管理費・修繕積立:60万円
- 固定資産税・都市計画税:65万円
- 利息支払:200万円
- その他経費:20万円
- 減価償却費:181.8万円
合算すると、合計必要経費 ≒ 60+65+200+20+181.8=526.8万円(減価償却費含む)
課税所得ベース
収入(年)= 624万円 × 0.92 = 574.1万円
収入 − 経費 ≒ 574.1 − 526.8 = 47.3万円
このように、経費までの所得では帳簿上もプラスになります
この所得からさらに 青色申告特別控除(最大65万円) を適用します
課税所得=47.3-65=▲17.7万円
課税所得はマイナス(控除超過)となり、この場合、所得税・住民税の負担は大幅に軽減されます
また、赤字分は翌年度以降も繰越できる点が利点です
事業規模判定との関係
事業的規模の判断基準
不動産所得が「事業的規模」と見なされれば、さらに優遇措置が受けられる可能性があります
一般に判断基準として言われる例には:
- アパート貸家10戸以上
- 家賃収入額や管理の煩雑性
のような目安が挙げられます。ただし、これに関して明確な法律規定はなく、税務署の判断が関わってきますので税理士と相談しましょう
事業とみなされると、次のような追加メリットが得られる可能性があります:
- 回収不能賃料の損失計上:滞納や未回収家賃を損失として経費処理
- 取り壊し・除却損失の経費化:建物を取り壊す費用を損金扱い
- 専従者給与の経費計上:家族に支払う給与を経費にできる
一棟運用の場合、これらのメリットを受ける反面、個人事業税の負担増や税務調査で「事業性の有無」を問われるリスクも増える可能性があることを考慮しておきましょう
ケース3:複数棟所有(拡大運用)
前提条件と物件スペック(仮定モデル)
シンプル化したモデルケースとしての仮定です
| 項目 | 値(仮定) |
|---|---|
| 所有棟数 | 3棟(A棟:木造6戸、B棟:軽量鉄骨5戸、 C棟:RC造4戸) |
| 購入価格合計 | A棟2,400万円、B棟3,000万円、C棟5,000万円 |
| 建物部分取得価格 | A棟1,100万円、B棟1,500万円、C棟2,400万円 |
| ローン条件 | 各棟別ローン、30年・金利3.0% |
| 年間家賃総額 | A:468万円、B:390万円、 C:600万円 → 合計1,458万円 |
| 空室率 | 平均 8%(稼働率92%) |
| 管理費・修繕積立 | 年間 150万円(棟合算) |
| 固定資産税・都市計画税 | 年間 180万円 |
| その他経費 | 年間 60万円 |
| 利息支払額 | 年間合計 約 450万円(仮定) |
青色申告を適用した場合の試算
減価償却費の算定
建物部分を法定耐用年数で償却します
- A棟:1,100 ÷ 22 = 約55万円
- B棟:1,500 ÷ 27 = 約55万円
- C棟:2,400 ÷ 47 = 約51万円
年間減価償却費は約161万円です
必要経費その他
- 管理費・修繕積立:170万円
- 固定資産税・都市計画税:190万円
- 利息支払:460万円
- その他経費:70万円
- 減価償却費:161万円
合算すると、合計必要経費≒170+190+460+70+161 =1,051万円(減価償却費含む)
課税所得ベース
収入(年)= 1,458万円 × 0.92 = 1,341.4万円
収入 − 経費 ≒ 1,341.4 − 1,050 = 約 291.4万円
この所得から 青色申告特別控除65万円 を差し引きます
課税所得=291.4 - 65 = 226.4
課税所得は約 226.4万円となり、税額軽減効果は大きくなります
また、所得が黒字であっても、将来の赤字年度との繰越調整や節税戦略として、複数棟の物件間で所得のバランスを取る運用が可能です
リスクと対応戦略
- 管理コストの急増:複数棟になると、設備管理・クレーム対応などのコストが急に増えます
- 帳簿負荷・ヒューマンエラー:複数物件をまとめて記帳するためミスが出やすくなります
- 節税目的判定リスク:税務署から「節税目的のみと見なされる」可能性が高くなる
- 融資の審査難易度:複数ローン管理・返済見通しを厳しく見られる
リスクに対して、物件間で収支の調整、管理体制の強化、専門税理士や会計士の導入などの対応策が考えられます
各ケース比較と選び方指針
節税効果とキャッシュフローの比較表
| 比較項目 | ケース1 区分マンション | ケース2 一棟アパート | ケース3 複数棟所有 |
|---|---|---|---|
| 初期投資額 | 約2,000万円 | 約8,000万円 | 約1.5億円前後 |
| 年間家賃収入(総額) | 約120万円 | 約624万円 | 約1,458万円 |
| 減価償却費(概算) | 約45万円/年 | 約182万円/年 | 約161万円/年 |
| 経費総額(概算) | 約90万円 | 約527万円 | 約1,050万円 |
| 青色申告特別控除 | 65万円 | 65万円 | 65万円 |
| 事業的規模の判断 | 小規模(対象外) | 境界線上 | ほぼ事業的規模 |
| 節税インパクト | ★☆☆ (限定的) | ★★☆ (控除効果が明確) | ★★★ (経費+控除で最大) |
| 記帳・管理の手間 | 少 | 中 | 多(税務リスク増) |
| 向く投資家層 | 副業・初期層 | 中堅投資家 | 専業・法人化検討層 |
比較すると、青色申告の節税効果は「規模の拡大」に比例して高まることがわかります
特にケース2以降では青色申告特別控除65万円の恩恵をフルに受けられるため、記帳・管理の手間を上回る効果が見込まれます
投資家のステージ別に向く運用スケール
- ステージ①:副業・初期投資層(ケース1)
給与所得と損益通算を狙う段階。帳簿付けに慣れる目的で青色申告を導入し、赤字を活かした税負担軽減を目指す - ステージ②:中規模運用層(ケース2)
一棟物などで「青色申告特別控除65万円」を活かせる規模。帳簿整備や減価償却管理が本格化し、実質的に「個人事業」として成立する - ステージ③:専業・拡大層(ケース3)
複数棟を所有し、家族を専従者にして給与を経費計上。法人化や物件管理の外注を検討するフェーズ 税務上の「事業的規模」認定を意識し、経営者としての帳簿精度・説明責任が求められます
青色申告メリットを最大化するための戦略的視点
- 帳簿整備と会計ソフトの導入を早期化
クラウド会計(例:freee、マネーフォワード等)を活用し、証憑データの電子保存に対応する(青色申告特別控除65万円の適用には「電子申告+電子帳簿保存」が必要です) - 減価償却のバランス管理
初期に過大な償却を行うと、後年の課税所得が急増します、キャッシュフローと節税の最適点を探る必要があります - 専従者給与・経費の「実態性」を確保
家族給与は労務実態と相応額のバランスを明確にする必要があります - 節税目的だけでなく「経営意識」を持つ
青色申告は「税金を減らす制度」ではなく、「事業としての信頼を高める会計制度」と認識しておく、銀行融資、リファイナンス、資産売却時の信頼性にも直結します
共通の注意点・落とし穴
減価償却の取りすぎと出口時譲渡所得税負担
減価償却で所得を抑えると、帳簿上の建物簿価が下がります 売却時には譲渡所得(=売却額 − 簿価 − 譲渡費用)が増え、譲渡所得税が膨らむため、短期的な節税だけで判断しないようにしましょう
帳簿整合性や証憑保管が不完全だと否認リスク
領収書や振込明細、修繕の見積書などは電子データでも保管可能ですが、取引の実態と整合しているかが最重要です
曖昧な名目経費や日付の不整合があると、青色申告特別控除が否認されるおそれがあります
青色事業専従者給与の妥当性判断
専従者に支払う給与は「実際に従事しているか」「給与水準が相場と釣り合うか」が厳しく見られます 過大支給は否認・追徴リスクがあり、帳簿上も実働日報・振込記録などの証拠を整備しておくことが重要です
事業規模の判断が税務署と異なる可能性
不動産貸付が「事業的規模」と認められるかは、明確な戸数基準ではなく、
- 貸付戸数(目安:10戸以上)
- 管理の手間・人的関与
- 収入規模・社会的認知
などを総合的に勘案して判断されるようです

税務署の判断と食い違うと、青色事業専従者給与や特別控除が取り消される場合もあるため、顧問税理士への事前相談した方がよいでしょう
まとめ:ケーススタディから学ぶ青色申告活用法
- 小規模から拡大運用まで、青色申告の立ち位置を理解する
初期は帳簿整備の練習段階でも、確定申告を通して経営感覚を養うことが大切です - 無理なく自分のスケールに応じた使い方をすること
節税を目的化せず、経営の透明性・信頼性を高めるために青色申告を活用しましょう 自分の所得状況・時間コスト・将来の法人化構想に合わせて規模を選択しましょう - 節税だけでなく、出口・運営を見据えた戦略が大事
減価償却・融資返済・譲渡税負担など、10年単位のキャッシュフローを俯瞰することで、 「節税 → 黒字化 → 再投資」という好循環を生み出せるでしょう


